目が覚めると午前4時。
うつ伏せの状態から体を動かそうにも自己主張してくる脳みそがパンパンに痛む。
何とか上体を起こして気がついたのは、涎と寝汗と男性特有の脂汗によって枕がドン引きするくらい汚れていたということ。
最悪の寝覚めだった。親父の枕の匂いを雑草のようだと形容した幼稚園児時代の自分に見せたらきっと泣く。
だがそんなことはどうでもよかった。
「どうやって会社に行こう」
それしかなかった。
冷静な脳みそで考えれば39℃の熱に加えて頭痛、吐き気、節々の痛み等々の症状があるのなら、業務は疎か出勤すら不可能。早々に欠勤を連絡するべきだ。
しかし、自分は義理堅い人間である。
1人が休むと周囲に多大なる迷惑がかかるシステムの会社だ。たった1日の休みであろうと、代わりを他所から探し、引き継ぎを行わなくてはならない。その業務を店舗の人間にぶん投げることになる。
その店舗の人間達も、店長のパッシブスキル「無言の圧力」により毎日、前残業+残業の計約4時間&タイムカードレス休日出勤をキメる一流戦士達のみである。自分からの感染なぞ気にもとめないだろう。
迷惑をかけるくらいなら悲鳴をあげる全身に鞭を打って出勤する方が遥かにましだ。
さらに、残り出勤日数は11日。
わずか半年とはいえ、お世話になった職場に最後の最後に迷惑をかけたくない。
朦朧とした脳でそんなことを考えていると、ふと気づく。
あれ、義理通す必要あるんかこれ?
早々に欠勤連絡を済ませる。
生憎、ブラック企業に通す義理など持ち合わせておらぬのだ。
再び床に就く。
すかさず涎枕の感触。
尋常でない頭痛が寝返りを許さない。
首を動かすだけで脳が痛む。
雑草の匂いに包まれながら悪夢に堕ちていく他に選択肢はなかった。
その時は脳みそで無限にテトリスをさせられる夢を見た。
再び目が覚め、フラフラのまま病院へ行く。
自分は滅多に病院へ行かない。
なのでかかりつけの医師(前田くん)に会うのも数年ぶりだ。
こいつも老けたなぁと思っていたが前田くんも同じ思いであった事だろう。
インフルエンザの診断を受け取り、あわよくば残り出勤日数11日を5日くらいに減らせぬものかという期待に胸を膨らませ、やたら長い綿棒で鼻をグリグリされる。
結果は陰性。
「よく分からいけど、ウイルス性の何かではあるから2,3日は大人しくしといてね。」と、診断書も寄越さずに言われた。
前田くん、それ1番休みにくいやつだよ。
処方された市販と何ら変わりのないロキソニンを貪るとみるみる痛みが引いていく。
ようやく思考する余裕がでてきた。
明日も休もう。
残り出勤日数、9日。